第5回 電子回路図 CAD(Bsch3V)による LED 点灯回路のハードウェア設計

■5.1 BSch3Vの概要
 BSch3V(Basic Schematic)は,岡田仁史氏が作成し,無償で提供されている Windows ベースで動作する電子回路図エディタ(CAD)である.本実習では,BSch3V Version 0.83 を使用する.
 その名の通り機能を基本的なものに限定し,操作の見とおしが悪くならないようにしており,以下の特徴を有している.
  • CPU 負荷が小さい(80486DX4 100 MHz 以上であれば実用的な速度で動作する).
  • 基本操作はツールバーのアイコンボタンから操作可能.
  • レイヤーが利用可能.
  • パーツをライブラリファイルにより追加可能.
  • ライブラリファイルをユーザが編集可能.
  • 図面をイメージファイルで出力可能.
  • ソースコードを公開.
  • 支援ツールソフトにより,より便利に使えるようになる.
◆5.1.1 支援ツールソフトウェア
 BSch では,以下に示す支援ツールソフトウェアが用意されており,様々な機能が提供されている.

ツール名 機  能
LCo ライブラリ編集ツール
 パーツをグラフィカルに作成し登録する.
Plist パーツリスト作成ツール
 作成した回路図に使われているパーツのリストを作成する.
 単純なテキストファイルのほかに,CSV 形式の出力も可能.
Nlist ネットリスタ
 作成した回路図の図面ファイルとパーツ・ライブラリからネットリスト(パーツ間の結線情報)を生成する.
 ネットリストは,プリント基板の作成等に利用できる. CSV 形式の出力も可能.
Nut パーツ番号割り付けツール
 作成した回路図データのパーツ番号を自動的に割り付けるツール.
 配置された位置で並べられたパーツ番号となる.重複しないパーツ番号にしなければならないときに便利.

◆5.1.2 回路図作成手順
<Step 1>
図面サイズの設定
作成する回路図面のサイズ(編集画面サイズ)を設定する.
<Step 2>
パーツの配置
必要なパーツを配置する.
通常,パーツは回路図を書きながら移動等していくが,まずは全体のレイアウトを見ながら大体の信号の流れで配置して行く.
ライブラリに必要なパーツがない場合は,LCo を利用して新しいパーツを登録する.
<Step 3>
配線
パーツ間をワイヤーやバスラインで接続する.
<Step 4>
編集
配線状態が見やすくなるようにパーツの配置等を適当に編集する.
<Step 5>
完成後の作業
回路図完成後は,必要に応じて以下の操作を行う.
 ・印刷や画像ファイル(BMP)出力を行う.
 ・Plist を利用してパーツリストを作成する.
 ・Nlist を利用してネットリストを作成する.
 
■5.2 BSch3Vの操作法
◆5.2.1 起動と初期設定
  デスクトップから BSch3V を選択して起動する.

 起動直後は新規ファイルが自動的に作成,表示され,タイトルバーに [Untitled] という新規ファイル名が表示される.



 設定メニューを用いて,以下に示す初期設定を行うことができる.
図面サイズ 図面サイズは規定値の 5 種類から選べるほか、[フリーサイズ]で自由に設定することができる.
 デフォルト:1000x750
グリッドへの
スナップ
パーツをグリッドにスナップするかどうかの設定.
 デフォルト:スナップする
クロスカーソル 矢印カーソルと十字カーソルを選択.
 デフォルト:矢印カーソル
ライブラリ BSch3V にライブラリファイルを追加,削除等する.

 表示メニューを用いて,編集画面に表示する情報等を変更できる.
グリッド 図面にグリッドを表示するかどうかの設定.
 デフォルト:表示

 なお,21番教室のシステムでは,パソコンの電源を再投入すると全ての設定がデフォルトに戻るため,デフォルト以外の設定にするには,電源投入毎に設定を行う必要がある

◆5.2.2 パーツ配置
 ツールメニューよりパーツを選択,もしくはボタンによりパーツ配置モードに移行する.
 描画エリアの任意の位置で左クリックすると,パーツ選択ダイアログが表示される.



 ライブラリ欄で適当なライブラリを選択し,名前欄でパーツ名を選択すると右の欄にプレビューされる(パーツのプレビューが有効の場合).
 実習で使用するライブラリの概要を示す.

ライブラリ名 内  容
LOGIC74 74 シリーズと 4000 シリーズのロジック IC パーツ
DISCRETE 電源,抵抗,コンデンサ,ダイオード,トランジスタなどの個別パーツ
DIGITAL メモリや周辺 I/O などの LSI パーツ
CONSW コネクタ,スイッチなどのパーツ
ANALOG オペアンプを主とするアナログパーツ
MYPARTS(登録後) ユーザ定義パーツ

 目的のパーツであることを確認してOK ボタンを押すと,描画画面上にパーツが赤色で仮配置される



 仮配置されたパーツは左クリックしてそのままドラッグすれば移動できる.
 また,番号や記号等をドラッグすれば,それらの表示位置を変更できる.
 パーツを適当な位置へ移動させ,パーツ以外の描画エリアをクリックすると配置が確定する



 この状態で左クリックすると,同じパーツが選択された状態でパーツ選択ダイアログが表示されるため,これで同じパーツを複数個連続して配置することが簡単にできる.

 パーツの配置は配線をしながら適宜変更していくことが普通であるため,最初は大雑把に配置する.
 ただし,信号全体の流れを把握した配置でない場合,以降の作業が大変になる.
 どのような配線が適当であるかは経験により学習していく.

◆5.2.3 配線
 配線には,ワイヤーバスの 2 種類が用意されている.

▼ワイヤー配線
 ワイヤーは通常の配線部分に使用する.
 ツールメニューよりワイヤーを選択,もしくはボタンによりワイヤー配線モードに移行する.

 任意の始点位置(パーツの端子等)で左クリックし,そのままドラッグして(線色:赤色)任意の終点位置(パーツの端子等)でボタンを離すと,1本の配線が完了(線色:緑色)となる.



 配線同士の接続(ジャンクション)は,ワイヤー配線モード時に配線上でダブルクリックして設定する.
 なお,ツールメニューよりジャンクションを選択,もしくはボタンによりジャンクション設定モードに移行し,任意の配線上でクリックして設定することもできる.



 また,配線時には以下に示す点に注意する.

配線の曲げ方 1 回の操作で 1 箇所だけ直角に曲げることができる
端子との接続 パーツ端子ライン(線色:黄色)とワイヤー(線色:緑色)の接続は,重ねてしまうと「接続」したとは見なされないため,パーツ端子とワイヤーの接続は先端で行うこと.
配線のやり直し 配線を間違った場合は,途中から接続しないで,その配線全体を一旦削除してからやり直すこと.
ジャンクション 基本的に十字交差は避け,T字交差とすること.

▼バス配線
 データバスなど数本の配線が平行に配線されるような場合には,通常,線をまとめて省略しバス配線として太い線で描く.
 このようなバス配線を作成する場合は以下のツールを利用し,ワイヤーツールと同様に配線する.

バス線 ツールメニューよりバスを選択,もしくはボタンによりバス配線モードに移行して「ワイヤー」と同様に配線する.
バスエントリ
ワイヤーエントリ
ツールメニューよりバスエントリーまたはワイヤエントリーを選択,もしくはボタンまたはボタンによりエントリー配線モードに移行してバスに接続して配線する.
ラベル ツールメニューよりラベルを選択,もしくはボタンによりラベル入力モードに移行し,バスに接続される相手のパーツの端子情報等を文字入力して配置する(図では A0〜A3).
 

◆5.2.4 編集
 パーツの移動やその属性を編集する方法を以下に示す.

▼移動
 ツールメニューよりセレクタを選択,もしくはボタンによりセレクトモードに移行する.
 パーツをクリックもしくは任意の領域を選択し,編集対象(領域)を決定する(編集対象は赤色表示となる).
 編集領域内をクリックして目的の位置まで移動した後,選択領域外をクリックして移動を確定する.


▼ドラッグ移動
 セレクタによる移動では,例えばパーツのみを選択して移動した場合はワイヤは残されてしまう.
 配線も一緒に移動したい場合はドラッグツールを利用する.
 操作方法はセクタによる移動とほとんど同じである.

 ツールメニューよりドラッグを選択,もしくはボタンによりドラッグモードに移行する.
 パーツをクリックもしくは任意の領域を選択し,編集対象(領域)を決定する(編集対象は赤色表示となる).
 編集領域内をクリックして移動すると,ワイヤも自動的に追従して伸縮する.



 なお,ドラッグにより対象を移動した結果配線が斜めに再配置される場合があるが,一般に回路図面として見やすいとは言い難いため,なるべく配線が水平もしくは垂直に伸縮するようにドラッグする(もしくはドラッグ後配線し直す).
 
▼パーツの属性
 各パーツのパーツ番号等の属性(アトリビュート)の設定は以下の手順で行うことができる.

 属性を編集したいパーツをダブルクリックしてアトリビュート設定ダイアログを起動し,パーツ番号や値等を入力する.



 74シリーズのロジック IC のように 1 個の IC に複数個のパーツがパッケージされている場合には,使用ブロックを指定すると自動的にピン番号が編集される.

 次に記号や値の表示位置を適当な位置に移動させる.
 下図は,パーツ番号を“U1”,値を「非表示」,使用ブロックを“2”へと変更した例である.


 
▼その他
 ファイルメニューより上書き保存を選択,もしくはボタンにより編集中の回路図を保存する.

 また,回路図をより理解しやすくするため以下に示すツールが用意されている.

タグ
  ワイヤーや部品端子に接続し,信号名を付ける.
同一名のタグ間は配線されているとみなされる.
ラベル   ワイヤーに信号名を付ける.
装飾線   波線など描画できる.回路ブロックの表示等に利用する.
電気的な特性はないため,ワイヤー代わりに利用することはできない.
マーカーライン 蛍光線を描画できる.
電気的な特性はないため,ワイヤー代わりに利用することはできない.
コメント 任意の位置にコメント(任意の文字列)を配置できる.
  
 レイヤー設定ボックス :8枚(0〜7)のレイヤーから編集するレイヤーを1つ選択する.

:表示するレイヤー(複数可)を選ぶ.
   編集レイヤー以外は薄い赤色で表示される.

 レイヤー7に,作成した回路のタイトルや作成者,日時,リビジョン等を記載するとよい.


◆5.2.5 イメージファイル出力
 BSch3V には,編集中の回路図をコピー&ペーストでワードプロセッサ等の外部アプリケーションに張り付ける機能が搭載されていない.しかし,別の機能を利用して同等の操作をすることができる.

 ファイルメニューよりイメージファイル出力を選択して実行することにより編集中の回路図を画像ファイル(PNGもしくはBMP 形式)として出力できる.
 そこで,ワードプロセッサ等の外部アプリケーションで作成しているレポート等に回路図を張り付ける場合は,一端画像ファイルとして出力し,必要であればグラフィックソフト等で加工して挿入する.

 
■課題
 BSch3Vを利用して,以下の仕様を満たす回路図を作成しなさい.

回路名 プッシュスイッチによるLED点灯制御回路.
マイコン PIC16F84A(クロック:4 MHz)
入力 プッシュスイッチ(SW1,SW2):RA3,RA4ポートに接続(負論理,ローアクティブ)
出力 LED(LED1,LED2):RB0,RB1ポートに接続(IF=10 mA程度,負論理,ローアクティブ)
備考 電源はあらかじめ供給されるとし(VDD:5 V,GND:0 V),電源回路を設計する必要はない.

 レポートは,下記のWordファイルを使用して作成すること.なるべく簡潔にまとめることが望ましい.
 Form05.docx

 WebClassより期限内に提出すること.